はじめての「白百合忌」顛末


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管理人「一日の労苦」(金木小学校 太宰治「微笑誠心」碑)

2021/06/13

はじめての「白百合忌」顛末  

私は昨年の今日、「白百合忌について」という記事を書き、『毎年「今年こそは白百合を持参して永泉寺に墓参に行こう」と思っていて、未だに実現していない』と素直にゲロっている。
それなのに、「絶対に来年は参加してやる!」とは書いていない。書くまでもなく、絶対に参加するからだ。
ちなみに毎年6月は太宰治強化月間(太宰治関係書籍以外は読まない)であり、当然ながら今年のテーマは山崎富栄となる。
とは言え、私は本を読むのが遅く、しかも昨年のコロナ茶番以降は外出で電車等に乗る機会が激減しているから、読書はもっぱらトイレの中だ。
ただでさえやりたい&やらなければならない事だらけで、TiddlyWikiのToDoリストは一杯だ。そこで、昨日まではこの本を読み返していた。

長篠康一郎『太宰治文学アルバム-女性篇-』

黒い背景に黒い本なのでヤラカシちゃった感があるが、コアな太宰治ファンにはお馴染み長篠康一郎の『太宰治文学アルバム-女性篇-』だ。
この偉大な太宰治研究家がいなければ、山崎富栄はその死後、様々な作家や評論家等から浴びせられた非難や罵詈雑言により、そのデマを含む間違ったイメージのまま、永遠に貶められたままだったろう。
しかし、山崎富栄の父・山崎晴弘(日本初の美容学校である「東京婦人美髪美容学校(通称:お茶の水美容学校)」の創立者)は、「娘が世間を騒がせて申し訳ない」との思いであった。
ちょっと長いが、『太宰治文学アルバム-女性篇-』の「山崎富栄」から一部を引用してみよう。

 山崎富栄の遺骨は密葬のあと父の山崎晴弘が八日市町に持ち帰り、母信子との最後の別れののち再び上京、山崎家の菩提寺である永泉寺(文京区関口町二ノ三ノ二八)に埋葬された。だが山崎晴弘は、娘が世間を騒がせて申し訳ないとの考えから、富栄には白木の墓標を建てただけで、住職の安田弘達師に対しても、富栄の墓所が永泉寺に在ることを世間には公表しないで欲しいと依頼したという。後年、山崎富栄のお墓を探すために、私が長年月を要することになってしまったのにも、こうした事情が存在したからである。それから九年後の昭和三十二年一月、山崎晴弘は病床に臥したが衰弱はなはだしく、同月二十五日深いかなしみのうちに不帰の客となってしまわれた。
 昭和三十五年六月十九日早暁、富栄の従兄にあたる山崎達夫、山崎伊久江夫妻は、夢枕に立つ若い女性の姿を同時にみた。朝食のとき、新聞を手にした達夫氏は「桜桃忌」の記事を見ていて、夢枕にあらわれた女性が従妹の富栄であったことに気付き、その日のうちにお茶の水美容学校の卒業生で組織するお茶の水会に呼びかけ、亡き山崎富栄の第十三回忌法要がはじめて営まれた。山崎伊久江先生を中心としたお茶の水会有志によって、山崎家の墓碑が新しく建立されたのは、翌三十六年のことである。昭和三十七年十一月一日、山崎晴弘の妻信子は、娘の富栄がやっと墓所に入れられたことを心から喜び、また、山崎校長の為にも立派な墓碑が建てられたことを感謝しつつ永眠せられた。

出展:長篠康一郎太宰治文学アルバム-女性篇-』広論社(昭和57年03月28日 初版発行)

山崎富栄の初めての法要が13回忌という事実や、ちゃんとしたお墓ではなく「白木の墓標」だけだった点からしても、日本の美容界に多大な貢献をした父・山崎晴弘の「深いかなしみ」は、察して余りある。
太宰治の死の直後から急速に高まっていく太宰文学の評価とそのファンの急拡大は、そのまま山崎富栄への非難につながったのだから、遺族にしてみれば身の置き所がなかったことだろう。
では、なぜそんな遺族を探し出して『太宰治文学アルバム-女性篇-』が出版できたのか?と言えば、前述の続きの文章でこう書かれている。

かねてより山崎富栄の御遺族を探し求めていた私は、文献だけでは手がかりが全く摑めないと判り、山崎姓の家を一軒ずつ飛び込みで尋ね歩いていたのである。

出展:前掲書

固定電話が各家庭にやっと普及したかどうかの時代で、今のようにネットで調べればある程度なんでも分かるような時代ではない。しかも生活基盤の本職を持ちながらの研究活動であり、「クレイジーだ」としか言いようがない。正に執念の仕事である。
ちなみに、この『太宰治文学アルバム-女性篇-』の出版は1982(昭和57)年であるが、当時は太宰の妻・美知子夫人はご存命であったし、昨年の記事でも書いたが、太宰治生誕100年の2009(平成21)年に出版になった松本侑子恋の蛍 山崎富栄と太宰治』によって山崎富栄に関する事実が一般に広まったと思う。

そんな白百合忌に、やっと参加できる。

日が経つにごとに徐々に高まる「白百合忌」への気持ちと、昨夜TiddlyWikiにメモっていた本サイトコンテンツの更新ネタをページに反映させていくうちに、妙な興奮状態に陥っていた。
困ったことに、水のウイスキー割りをどんなに呑んでも一向に酔わないし、眠くならない。
今までの経験から考えてコレはヤバいパターンで、案の定、どうやっても眠れないまま夜が明け、それでも多少は寝ておかないとマズイので1~2時間ウトウトしたものの、お昼になってしまった。
永泉寺は自宅からバイクを飛ばせば50分もかからない死ぬ気で走れば30分程度だが、幹線道路を飛ばすのでバイクだと途中で休めない。
それにこの不眠状態で事故ったら永泉寺どころか、自分がお寺の土になってしまう。
幸い、永泉寺は有楽町線・江戸川橋駅から徒歩ですぐだし、江戸川橋なら電車に乗っても30分ちょっとで着く。
お供えする花やお酒は現地調達するとして、すぐに準備して出掛けた・・・のはいいが、先月一杯は痛風発作が出てほぼ動けなかったのもあり、体調も体調だが、ともかくロクに歩かない日が続いていたので、電車に乗り込むまでが大変だ。流れる汗を拭きながら、歩いてるだけなのに息が上がる。14:00は過ぎていたが、ともかく着いた。

永泉寺

江戸川橋駅1b出口の上り階段の途中にコモディイイダ(スーパー)があって、店内を覗いてみると入り口すぐ右手に生花があり、お酒もある。が、やはり白百合は置いてない。
駅の出口を出て右手前方に横断歩道があり、渡った先に交番が見える。永泉寺へはその先の神田川を渡ってすぐの路地(目白坂)を左折すれば良いので、通り道だから交番に寄り、「この近くにお花を売っているお店はないですか?」と尋ねた。
親切そうな中年の警官が4人いて、口々に「確か椿山荘の先にお花を売っているお店があったよな?」みたいな話をしながらゼンリンの住宅地図を広げて探してくれたが、どうもそのお店は分からないようだ。
椿山荘までは坂を登って徒歩10分ほどだという話だが、往復20分を考えると確実な話でもないし、今日は何せ体力に自信がない。
最悪はコモディイイダがあるし、横断歩道も渡ってしまったから、まずは永泉寺に行ってみようと思ったのである。
ちなみに、永泉寺の手前に大泉寺がある。

大泉寺

記事のネタに「ココに間違って入らないように」と写真を撮った。
さて、場所も分かったしコモディイイダに戻ろうかと思ったが、一方通行の路地の割に歩き去っていく人が何人もいる。それも坂を登って行く人が多いので、「何かあるのか?」と思って坂道を歩いてみたが、ハッタリの利いた壮麗な住宅ばかりで、特に何があるワケでもなさそうだ。
途中、江戸川公園で休みながらコモディイイダに戻って生花とビールを買い、また江戸川公園で休んだ時には、立ち眩みのようなメマイがするし、息が上がるサイクルが短くなっている。さすがに「こりゃヤバイ」と思った。飲んだお茶は全部汗で流れてんじゃね?ぐらい汗が止まらない。
日曜日だとは言え、13日が白百合忌だと知って墓所に来るファンがそんなにいるとは思えないし、お墓も分からないから急がなければ!と焦った。

が、コレがイケナカッタ。

ともかく息が整ったら立ち上がり、お寺に急いで墓地を見て回った。
坂の途中にあるお寺だから、墓地も平坦ではないし、割合に広い。隅から隅まで「山崎家之墓」を探し歩いてたのでは日が暮れてしまう。
日曜日だからか、お寺の住職のような人もいないようだし、つーか、私以外誰もいやしない。特に案内板のようなモノもないし、コレは探し出すしか方法がない。
そこで、スマホで山崎富栄のお墓の場所について検索してみたが、「良く探さないと分かりません、丁度墓地の真ん中あたりで、墓石の右側に小さく富栄と書いてあります」(山崎富栄を歩く <太宰治>)・・・むう。
「丁度墓地の真ん中あたり」とは、どこを基準に「真ん中」と言っているのか分からないし、分かったのは「良く探さないと分かりません」の部分だ。
次にヒントになるのは、お墓の写真しかない。画像をググり、その「背景に何が写っているか」を見てみた。背景に写っている部分は急速な変化はしないのが一般的だし、探している両サイドの「◯◯家之墓」が分かったところであまり意味はない。
ところが、当たり前だが誰しも「山崎家之墓」を大きく写しているから、ヒントになるような背景があんまりない。
だが、拡大するとヒントになりそうな画像が2つほどあったので、それを手がかりに探してみた。

今、冷静に考えると、どういうワケか「ココに間違って入らないように」を「ココに入らなければ」と思い込んだのか、私は無駄に大泉寺の墓地でありもしない山崎富栄のお墓を、こともあろうか3時間も必死に探していたようだ。
結局のところ、今年も「白百合忌」には参加出来なかった。馬犬 目 ぽ..._φ(゚∀゚ )アヒャ

 


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